ペットフード業界の課題とは|なぜ日本から犬が減っているのか?

ペットフード協会、ペット業界の課題

近年の日本では、ペットフードの品質の向上や、ペットを家族の一員とみなす意識の高まりを感じます。

多くの飼い主さんが良質な肉を使ったフードを吟味し、添加物を避け、当たり前のように愛犬との旅行を楽しむようになりました。

ですがその一方で、犬の世帯飼育率は減少傾向が続き、犬の飼育意向そのものも低下傾向にあります。

そこで今回は、日本のペット業界を取り巻く現状と課題について、長年、全国犬猫飼育実態調査を行っているペットフード協会の山本敏城事務局長にお話を伺いました。

ペット業界の大きな課題は犬の飼育頭数の減少。新規飼育は年間45万頭へ

ペットフード協会 山本様

―コロナ禍でペットブームが起こりましたが、飼育頭数が減少しているというのは本当ですか?

はい。かつての日本は犬の新規飼育頭数が年間70〜80万頭ほどと言われてましたが、今では40〜50万頭程度です。

コロナ禍は確かにペットブームが起き、特に猫の飼育頭数が増えました。ですが、コロナの終息とともに減少し、日本は先進国の中で唯一、世帯飼育率が犬・猫ともに10%を切っています。

また、過去のピーク時に飼われていた犬が2023年頃から寿命を迎え、新規の犬よりも亡くなる犬が多くなっていることも飼育頭数の減少に影響を及ぼしているとも言えるでしょう。

しかし、20〜30代の既婚で子供がある世帯は14%と平均より高くなっており、子供の情操教育のために飼う方も徐々に増えてきています。

―ペットフードの市場は年々伸びているように感じていましたが、そうではないんですね。

一見、伸びているように見えて、実はそうではないんです。

ペットフード市場は、2024年の時点でメーカー出荷額では年間約4400億円規模にのぼる大きな市場です。ここ数年では、年間200〜500億円程度のペースで拡大しています。

しかしこれは、商品自体の値上がりや、飼い主意識の高まりから1食あたりにかける価格が上がっていることが理由です。

そもそもの飼育頭数は減少しているので、出荷量は前年割れしています。

それほどまでに飼育頭数が減少してしまうのは、やはり物価高の影響でしょうか。

年収1,500万円を超える世帯では飼育率がかなり上がるので、費用の問題は大きいでしょう。

生体価格自体もかなり高騰していますし、犬1頭あたりにかかる生涯飼育費用も増加している傾向があります。

お金があるから飼えるというのは、あまりよろしくないとは思っていますが、生体価格を下げることは現状難しいですね。

実は、2022年の動物愛護法が改正されたことで、悪徳ブリーダーが排除されただけではなく、優良なブリーダーの経営にも影響が及んでいます。

※正式名称:動物の愛護及び管理に関する法律

動物愛護法改正により、動物福祉と経営の両立が課題に

優良ブリーダーのイメージ (1)

ー動物愛護法の改正は良いことだと思うのですが、そうではないのですか?

もちろん、とても良いことです。2022年の動物愛護法の改正では、ブリーダーやペットショップの飼育環境の規制を厳格化しました。

1頭あたりのケージの広さや、繁殖の年齢や回数、従業員1人あたりが管理できる頭数などを見直したんです。

そうすることで、劣悪な環境で大量に繁殖する悪徳業者を排除しようとしたのでしょう。

ですが実際に施行されてみると、この規制は優良なブリーダーの経営にも負担となることが分かりました。

昔は30〜40頭飼育していた優良なブリーダーも、現在の規制では15〜20頭程度しか飼育することができません。

その結果、生体価格が高騰し、犬を家族に迎えるというハードルが上がりました。

動物福祉の観点から必要な規制だとは思いますが、ペットとブリーダーの両者に配慮された法律であるとより望ましいと思います。

2022年動物愛護法改正で定められた主な基準
項目 内容
ケージ(寝床)の広さ 縦:体長の2倍以上
横:体長の1.5倍以上
高さ:体高の2倍以上
運動スペース一体型(平飼い等) 床面積:分離型ケージの3倍以上 × 飼養頭数
高さ:最も体高の高い犬の体高の2倍以上
※床面積は、最も体長が長い犬の寝床面積の6倍以上を確保
繁殖制限 犬:6歳以下・生涯6回まで
従業員1人が管理できる頭数 繁殖犬:15頭まで
その他の犬:20頭まで
補足:本表は2022年6月施行の「犬猫の飼養管理基準」の主な内容を抜粋しています。
詳細は環境省「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針」をご確認ください。

子どもたちが動物と触れ合う機会の減少が飼育意向に影響

動物介在教育

ー2025年の全国犬猫飼育実態調査では、18歳までに犬や猫と触れ合う機会が多いほど、飼育意向に影響する傾向があると発表されています。ペットフード協会として何か取り組まれていることはありますか?

はい。ペットフード協会として、そもそもの飼育意向を高めるための活動を行っています。

今の日本では、学校でうさぎや鶏を飼うようなことも減っています。動物と触れ合う機会といえば、SNSの閲覧やテレビ番組ばかりで、自ら足を運ばないと動物と触れ合う機会がないのです。

そこで私たちは、少しでも犬や猫との接触の機会を増やして欲しいという思いから、インターペットなどのイベントで、動物の専門学校と協力しての触れ合いの場を提供しています。

また、一般社団法人マナーニさんによる小学校への動物介在教育のサポートや、リードプログラム(子供による犬への本の読み聞かせ)などへの支援もそうです。

将来的な飼育人口の拡大を目指して活動しています。

ー子どもが犬と暮らす効能については、海外では多くの論文が発表されていますよね。

そうですね。犬と暮らすことが心の安定につながり、子どもの自殺リスクを軽減したり、社会性や共感性の強化につながる可能性なども示されています。

ただ、実はこれは子どもに限ったことではないんです。犬を飼うメリットは大人にも多く、特に高齢者の方にはペットと暮らす大きな効用があるんです。

犬との暮らしがもたらす健康と社会への価値

犬との暮らしがもたらす健康と社会への価値を書いた本

ー大人が得られるメリットというと、精神的な支えになることなどでしょうか。

国立環境研究所の主任研究員である谷口優先生の研究では、犬と暮らす人はそうでない人と比べて、認知症を発症するリスクが4割も下がることが分かっています。

これは、犬のお世話が生活の一部になることで、適度な運動習慣がつき、外に出て社会と交わるきっかけが増えることが主な要因だと考えられます。社会的な孤立を免れることは大きな価値があると言えるでしょう。

さらには、このような個人への健康効果は、将来的な介護費用にも差が出ることが分かっています。

介護費用に差が出るということは、国の予算を圧迫する社会保障費用の抑制効果も期待できるということです。

ーただ、高齢者が犬の飼育をすることに関しては、賛否両論があるように思います。

そうですね。保護犬の里親先に年齢制限を設けていることも多いですし、高齢者が犬を迎え入れるには近親者などの協力が必要不可欠です。

犬の平均寿命も伸びていますから、万が一、飼育者に何かあったときのために、残された犬を受け入れる環境を整えておかなければなりません。

老犬ホームのような終生飼養のためのサービスもありますが、まだまだ認知が広がっていないのが問題です。

ですが、環境さえ整えば、高齢者が犬を飼うメリットはとても大きいのです。特に50代〜60代の方には、犬を迎えることを前向きに検討していただきたいと思っています。

50〜60代と言えば、健康への関心がより高まる世代ですよね。犬と一緒に外へ出て、新たな日常を楽しむことが心身の健康維持に役立ちます。

また、子供が独立して孫ができる人も徐々に増えるでしょう。そうすると、孫が家に遊びに来ますよね。

お爺ちゃん、お婆ちゃんの家で犬と触れ合って育った子どもは、将来的なペットの飼育意向者となる可能性が高まります。

そのような良い循環が生まれれば、ペットを身近に感じる人がもっと増えていくのではないかと思っています。

ー私も幼い頃、祖父母の家の近くの犬とよく遊んでいて「犬を飼いたい!」と両親に頼み込んでいました。

確かに、あのときの経験が大人になって愛犬を迎え入れたことに繋がっていると思います。

山本さんこの度は貴重なお話をありがとうございました。

ペット業界の未来は?何度でも、犬と暮らそうと思える社会を目指して

子供と愛犬

山本さんのお話を伺い、今の日本は犬と出会う機会も、犬を迎える余裕も失われつつあるのだと改めて感じました。

実際にわたし自身も、愛犬を亡くしてからは経済面や時間的制約から次の子をお迎えすることをためらっています。

ですが今回のインタビューを通して、愛犬との暮らしがどれほど幸せな時間だったかを改めて思い出し、「もう一度犬と暮らしたい」という気持ちが以前にも増して強くなりました。

また同時に、ペットと暮らすあの幸福な時間を、ひとりでも多くの人に経験してほしいと心から思います。

「犬と暮らしてみたい」「もう1度犬と暮らしたい」そんな想いを抱く人が、願いを無理なくかなえられる社会になるよう、これからも私はペットに関する情報発信を続けていきたいと思います。

※参考:環境省「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針

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